序章

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**** シトシトと冷たい雨が降り、マフラーや手袋を必要とする十二月のある日。 学校から帰宅途中だった浅田明日香(あさだあすか)は、もうあと五分で自宅に着くというところで、自転車のペダルを漕ぐのを止めていた。 くぅーん 「~っ」 悲しげに鳴くその声に、明日香は眉を八の字に垂らし、苦悶の表情を浮かべる。 明日香の目の前には、段ボール箱に入った、愛らしい生き物……真っ黒な毛色の子犬が、この今にも凍えそうな寒さの中、瞳を揺らし、明日香の顔をジッと見上げていた。 特に何も記載がないが、子犬に首輪がついていないこと、段ボールの場所がアパートのゴミ捨場であることことから、飼い主に捨て置かれてしまったのだろうと、明日香は思った。 「陽太、犬嫌いだもんなあ。でもココに残してくのは可哀そうだし、でも……」 息を吐けば空気が白くなる程の気温の低さに、明日香は子犬を連れて帰りたいという気持ちでいっぱいだった。 しかし、動物が苦手な弟の姿を思い浮かべては、どうしようかどうしようかと、頭を悩ませる。 くーん 「っ、おいでっ」 十五分間、明日香は悩みに悩んでいたが、子犬の一鳴きを聞くと、決心を固めた。 明日香は、手に持っていた傘を降り畳み自転車から降りた。 寒さで震える子犬を優しく抱えあげ、自分のコートの中にいれ温めた。  傘の代わりにコートについているフードを深く被ると、明日香は再び自転車に跨がり、全速力で自転車をこいで自宅へと向かった。
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