おにいさま

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 緋依は三匹の横を通りすぎると、首を後ろに倒し、扉を見上げた。  真っ赤に色塗られた扉には、赤子を抱き微笑む、美しい聖母の絵が彫られている。 「部屋の中には、何者も足を踏み入れておりません」  利洲が、背にある刀の柄に触れながら、緋依に言う。 「何匹か侵入しようとするアホ共がおりましたが、扉に触れる前に、全員排除いたしました」 「……そう」  庵の話を聞いた緋依は、扉から目を離すことなく小さく頷き、ゆっくりと、扉のくぼみに右手をあてた。  くぼみは緋依の手にぴったりと合う。  緋依の手が触れた瞬間、くぼみから扉全体に、脈打つように赤い光の筋が流れた。 「……ダガラット」    緋依の言葉に、扉は地響きのような轟音を奏でて応え、ゆっくりと、左右に開き始めた。  ギ……ギギギギ…… 「……庵、葉、秋、利洲」  緋依は扉が半分ほど開いたところで、背後に立つ餌の四匹に向け、振り返ることなく声をかけた。 「「はい」」  その声色の重さを感じとった四匹は、その場で膝を立てて跪き、緋依に向け頭を垂れた。 「私が準備するまでに、お前たちも準備してきて……王の前に出る、ね」 「「かしこまりました」」  四匹の気配が遠ざかるのを感じつつ、緋依は残った蒼と佳を連れて、開かれた扉の中へと、静かに足を踏み入れた。
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