おにいさま

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「!」  部屋に足を踏み入れた利洲は、ソファーに腰掛ける緋依の姿に、思わず目を見開いた。  そしてすぐに緋依の足元で跪き頭を垂れると、恐る恐るといった様子で、口を開いた。 「……姫様」 「ん?」 「何故、そのお召し物を?」 「……わからないの?」  緋依は片方の口角をあげ、首をこてんと左に傾げると、クスリと小さく笑い、忌々しげに言った。 「聞かなくても、わかってるでしょ?」 「っ、」  緋依は左手を伸ばして利洲の顎をすくいとり、利洲に上を向かせた。  利洲と緋依の目が合う。  利洲の瞳が揺れる。 「姫、様」  利洲は、緋依の顔に浮かぶ、怒りと哀しみが入り混じったような笑みを見て、過去に見た緋依の笑顔との違いに、胸に鋭い痛みが走る。 「こんなの……王への当て付けに決まってる」 「姫さ、っ!」  ――姫様、それ以上は。  そう言おうとした利洲の首筋に、突然痛みが走った。 「くっ……あ」  しかし痛みを感じたのは一瞬で、それはすぐに、懐かしい甘い痺れへと変貌していく。  緋依は両腕を利洲に伸ばし、体をソファーから利洲へと預け、しがみつくように手を利洲の頭と背に回す。
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