おにいさま

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 "お腹いっぱい"と、先ほど秋におっしゃっていませんでしたか――利洲はそう思いながらも、久しぶりの快感の波に堪えられず、言葉にすることが出来なかった。  何度血を吸われようとも、慣れることのないこの快感。  利洲は、吸血行為の最中に不快と思ったことはないし、反対に『もっと』と思うときもある。  しかし、自身でコントロール出来ないこの感覚に、利洲の中では、なんだか気恥ずかしい思いが沸き上がる。  ――約三分後。  ズブッ、と緋依が牙を抜き、利洲の首筋から離れた頃には、利洲は両手を絨毯の上につけ、乱れた息を整えるのに、必死だった。 「……ごめん」  利洲から離れソファーに戻った緋依は、口元を手の甲で拭い、申し訳なさそうに眉を垂らすと、利洲から視線を外す。  緋依の謝罪の意図がわからない利洲は、乱れた呼吸のまま顔を上げ、聞き返そうと思った。  しかし、思わぬ声に遮られ、利洲は口を閉ざして、首を背後にむけた。 「姫様が謝られる必要などございません」 「そうだよ」 「……なんで、利洲が」  庵に、秋に葉。  三匹は、それぞれ黒いスーツの正装に着替えた姿で、利洲を冷たく見下ろしていた。 「利洲」  緋依の声に、三匹は嫉妬にまみれた目を緋依へと移す。 「はい」  幾分か呼吸も落ち着いた様子の利洲は、そんな三匹に思わず苦笑を浮かべつつ、緋依へと返事を返すと立ち上がり、乱れたシャツの襟元を整えた。
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