おにいさま

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「お腹が空いてたわけじゃないわ……ただ、感情が昂るのが止まらなくて貴方の血を貪っただけ。ごめん」  利洲は先ほどの緋依の謝罪の意味を理解した。  罰が悪そうに自分から顔を反らす緋依に、利洲はなんだそんなことかと、安堵の息をもらす。 「私の血が……お役に立てたのでしょう?」 「ええ……落ち着けたわ」 「ならば、いくらでも飲んでくださって構いません。大体、私は姫様の『餌』なんですから」  他の三匹から飛ばされる殺気が痛い、と利洲は苦笑いを浮かべつつ、緋依の前で跪き、緋依の左手をとって口づけを落とす。 「姫様……そろそろ参りましょう」  最も嫉妬の念が濃い目で二匹の様子を見ていた庵は、僅かに声のトーンを落として、促す。 「そうね……庵」 「はい」 「落ち着いて」  庵が本気になれば、利洲や他の二匹を消し去ることなど、容易いことだと利洲たちも知っていた。  しかし利洲たちは、そんな庵に臆することなく、緋依に親しみを込めて接することが出来る。 「私の気分で吸ったのよ。利洲に殺気を向けるのは筋違い」 「……はい、申し訳ございません」  それは、緋依に嫌われたくない庵が、自分たちに手を出すことはないと、利洲たちは知っていたからだった。  そのことを、当の緋依は、気がついていないようだが。
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