おにいさま

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 緋依の答えを聞いた葉は、俯き、自分の足元に視線を向ける。  そして、左右にある細く小さな手を強く握りしめると、再び顔を上げ、揺れる瞳で緋依を見上げた。  金髪の髪が、揺れる。   「では、姫様は!」 「……」 「姫、様は、」 「……」 「緋恋(ひれん)様を、見捨てられるおつもりだったのですか?」  ――パンッと、乾いた音が響いた。  葉は頬を押さえ叩いた者を睨み、叩いた者はその手を元の位置に戻しながら、葉を冷たい目で見下ろした。 「葉……黙れ」  叩いた者は、秋だった。   「なに、すんの」 「お前ごときが姫様を罵倒する気か?」  葉は秋の"罵倒"という言葉に若干怯み、「そんなつもりじゃ、」と言葉を濁らせ、罰が悪そうに視線を足元に下げる。  そこで話を終わらせておけばよかったのに、葉は不貞腐れるようにこう言った。     「……私は、姫様とお話しているの。秋には関係ない」 「関係ない、だと?」 (――まずい)  利洲がそう思った時には既に遅く、秋は右手で葉の髪を鷲掴みにして後ろに回り込み、左手でその鋭い爪を、葉の喉元に押しあてていた。
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