おにいさま

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 秋の爪が食い込んだ葉の首から、血が流れる。 「っ!、離して……喉噛みきるよ?」 「――だ」 「何、」 「三百年だ!」  秋の怒鳴り声に、静かに二匹の様子を見ていた緋依と庵の眉が、ピクリと反応した。    利洲が二匹を止めようと動きかけたが、庵がゆっくりと階段を降りてくるのに気がつき、溜め息を吐いて、留まった。  二匹はまだ、気配を消す庵の接近に、気がついていない。 「三百年間ずっと、俺は姫様の帰りを待っていた!」 「それは、私だって!」 「ならわかるだろ! 俺は"あの日"から、姫様を傷つける全てのものから、姫様をお守りすると決めたんだ! 関係ないなんて、言わせない!」 「でも、……秋に、秋に、私の気持ちがわかるわけない!」  庵が、怒鳴り合う二匹の横に立ち、秋の頭上に、腕を伸ばした。  ようやく庵の気配に気が付いた秋と葉が、大きく目を見開く。 「がっ!?」  それと同時に、庵は伸ばした腕をそのまま垂直に降り下ろし、拳骨を秋の頭に叩きつけた。  鈍い音に、利洲は思わず顔をしかめる。   「い、庵様?」    秋は頭を抱えその場に踞(うずくま)り、涙目で、庵を見上げた。  秋の手から解放された葉も、庵の横顔を訝しげに見ている。 「葉」 「っ、……はい」  庵に名を呼ばれ、葉の身体がビクッと肩を上げた。 「黙れ」 「私は、」 「言い訳はいい」 「……はい。申し訳ございません」  有無を言わせない庵の冷たい眼差しに、葉は唇を噛みしめつつも、頭を下げた。 「……秋」  庵の視線が、葉から秋へと移される。
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