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約六千年前。
ヴァンパイア王家の城では、トア全体を揺るがす大問題が発覚していた。
「なっ……子が出来ただと!?」
王妃である緋花(ひか)の腹に、王以外の男との子ができてしまったのだ。
だが、緋花が王を裏切ったわけではない。
つい先日に起きた、王に恨みを持つ者に襲われた事件が原因だった。
緋花が襲われたと泣きながら訴えたとき、王や周囲は疑いもなくその話を信じ、緋花を襲った者を処刑した。
王だけではなく周囲が誰一匹として緋花を疑わなかったのは、王と緋花が愛し合っていることを、皆知っていたからだ。
襲われた緋花を、皆優しく慰めた。
だが、王妃である緋花が王以外の子を授かってしまったとなると、話は別だ。
王位継承問題、王家の威厳の損失、それを恐れる王族たちからの圧力。
もし緋花がこのまま子を産めば、様々な問題が発生し、トアの揺るぎない身分制度にすら、支障をきたす恐れがある。
王の側近や王家の者たちは、皆一様に、子を流せと緋花に訴えたが、緋花は絶対に首を縦に降らなかった。
「誰との子であろうとこの子は私の子、私は産むと決めたの!流すくらいなら私は城を出ていきます!」
王は悩んだ。
愛する緋花を手放したくない、だがこのままでは他の者が言うように、下手すれば身分制度が崩壊する。
悩んだ結界……王は一つだけ、双方の主張を取り入れる方法を思い付いた。
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