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王は寝室に引きこもる緋花の元へ足を運んだ。
ベッドの上で両足を抱え座る緋花の隣に、王は優しく腰かける。
緋花はチラッと王を見たが、不貞腐れたようにプイと顔を背ける。
まるで子供のような緋花の態度に、王は怒るどころか、優しく笑みを浮かべた。
王の柔らかい雰囲気に、緋花は心の中で戸惑い、警戒した。
「……貴方の頼みでも、嫌よ?」
そんな妻に「わかってるよ」と王は苦笑しながら、緋花の頭を優しく撫でる。
すると緋花は、目に涙を浮かべ、勢いよく王に抱きいついた。
「城の皆も、元老会も!簡単に流せって……命をなんだと思ってるの!?」
緋花の気持ちを吐き出させるように、王は緋花の背を優しくさすった。
「貴方との子じゃないって、ちゃんとわかってる! 私もこの子に気がついたとき、絶望した! 貴方に捨てられるかもって! でも、でも! 私はこの子を、私の子を、殺したくないのっ」
産みたいと言う緋花に、賛成を示す者は誰一匹としていなかった。
罵倒され、脅され、緋花の最後の頼みの綱は、自分を愛してくれている王だけだった。
王は目を瞑りゆっくりと息を吐き出すと、緋花の腕を無理やり剥がした。
緋花は戸惑い王に顔を向けようとしたが、王が緋花の頭を強く自身の胸に押し付け、体を強く抱き締めたために、それは不可となった。
「あなた……?」
自分の肩に顔を埋める王のただならぬ雰囲気に、緋花は不安の声をあげる。
だが、王は答えない。 緋花は王が自分から話すのを待った。
そして、しばらくすると、王は掠れる声で緋花に言った。
「緋花……私の名を呼んでくれ」
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