王家の秘密

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 緋花は“獣化”を行い、黒い毛を纏った、まるで狼のような獣の姿となった。  目にも止まらぬ速さで、赤子の目の前に立つ男の心臓部を鋭い爪で抉りとる。  男の体が灰になりきる前に緋花の怒りに気がついた周囲の者たちは、瞬時に転移術を行おうとしたのだが、獣の姿の緋花がダンッ!と前足を地に叩きつける方が早かった。  緋花は大きな結界を張り、結界内にいる者の力を使えなくしたのだ。  その場から去ることが出来ず、焦り、恐怖で震える灰色のマントの男たちを、緋花の赤い目がゆらゆらと怒りの炎をまといながら、射抜く。  緋花の足が、地を蹴った。 「ぎゃああああっ」  王族にしか受け継がれないはずの緋の瞳を、何故王の妻である緋花が持つのか。  それは、緋花は元々緋羅の従妹であり、緋花自身が王族の身だからだ。  王の直系に近い緋花の力を越えられるヴァンパイアなど、指で数えられる程しかいない。  怒り狂った緋花を止めることの出来る者が現れるまで、緋花は元老会の者を誰彼構わず次々と殺していった。 「はあ、はあ、」  我に返った緋花が周囲を見渡すと──昔、緋羅と共に一度だけ見たことのある、人間界の雪のように、辺り一面灰が積もっていた。
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