王家の秘密

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 緋花の王妃としての評判は、双子を産む奇行以外、すこぶる良かった。  また、緋花が大罪を犯したその原因が、元老会の者たちの横暴な行いによるものだということは、既に民にも知れ渡っており、元老会を罰せよとの声もあがった。  しかし、いかなる事情があろうとも、私怨による同族殺しは大罪となるのが掟、緋花もまた罰せられなければならない立場にあった。  故に、元老会の会長は、緋花にある取引を提示した。 「我々は、貴女が同胞に手をかけたことを責め立てない。代わりに、貴女も我々を責め立てない」 「……」 「事を荒立て、余計な火の粉を増やさない為にも、どうか同意していただきたい」  “火の粉”。  深く頭に被せたフードをとらず、決してその顔を見せない会長が言うように、もしも互いが互いを責め合えば、緋花は王位を剥奪され投獄される。  元老会は会長、並びに上位の者は、処刑される。  自然と、元老会に残った者たちの怒りの矛先は、双子に向けられると考えるのが妥当だろう。  緋花は黒く焼け焦げた赤子の頬を撫で、俯き歯ぎしりをたてながらも、会長の取引を受け入れた。 ******  緋花と元老会の交渉により、王族以下ヴァンパイアは、今回の“事”をトアの歴史記録から抹消した。  勿論、知る者は知る。  しかし、表立ってそれを話題にする者は、いなくなり、何事も無かったかのように、緋花を以前と同じく王妃として扱った。  また今回の事を機に、四つに別れた派閥に関係なく、過激派の者たちでさえも、双子に今後一切手出しをしないと誓った。 「緋羅……守れたわ」  緋花は静かに眠る双子を優しく抱き締めると、どちらにいるかわからない緋羅に向け、双子を守れたことを報告した。 「会いたい……なんて、私が言ったら駄目ね」  緋花は自嘲的な笑みを浮かべ、赤子を揺りかごに戻そうとした。  ――そのとき! 「!!………う、そ」  本当に、一瞬だけ。  すぐにその力は消え赤子の力のみになったが、緋花は片方の子から“王の力”を感じ取った。    緋花は、少し肌が黒くなってしまっている子の頬を、指先でそっと撫でた。
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