王家の秘密

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 フラりと倒れる女の体を男は胸で受け止め、女の背に両腕を回し、優しく支えた。 「なん、で……こんなこと…をっ、貴方は、"緋羅"じゃないわ」 「……」 「"緋羅"は……緋依だもの」 「……」 「なのに……何故!!」  女が叫ぶと、男は女の両肩に手を移動させ、女を自分から少し離した。  そして、女に目線を合わせ――顎に血を滴らせながら、口を開いた。 「確かに、僕は"父様"ではありません。けれど、僕は貴女を――母様をお慕いしております。」  哀しそうに、緋恋は笑った。 ******  漆黒の扉が轟音を立てながら左右に開かれる。  扉の中から出てきた緋恋は、廊下の先からこちらに歩いてくる自身の片割れを見つけた。 「お兄様……」  緋依の声と表情に、緋恋は目を細め苦笑いをこぼした。 「これが最初で最後……だから見逃して」  緋恋の気持ちに薄々感付いていた緋依は、泣くのをこらえるような表情を浮かべ、唇をグッと噛み締めた。  牙が唇に刺さり、血が流れる。  そんな緋依に緋恋は優しく微笑みを浮かべると、親指で緋依の血を拭き取った。 「……こんな兄で、ごめんね?」  緋依は、勢いよく首を横に振る。 「ふふっ、ありがとう」 「これから……どうするの?」  城を出て行ってしまうのではと緋依の胸に不安が過るが――。 「……何も、変わらないで欲しいと言われたから」  ――眉を八の字にして笑う緋恋の答えに、その方がマシだったのかもしれないと思った。
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