王家の秘密

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 ――緋花に用があり王室へと向かっていた一匹のヴァンパイアは、緋依を抱き締める緋恋を見て、咄嗟に気配を殺し身を隠した。  普段は気配に敏感な二匹も、この時ばかりは周囲に気を配っていなかったが為に、男の存在に気がつくことが出来なかった。  男には二匹の会話までは聞こえていなかったが…ただならぬ雰囲気だけは伝わっていた。  緋恋が緋依の肩に頭をのせ、緋依が緋恋の背に腕を回す。 「……なんということだ」  二匹の関係を勘違いしたこの男は、元老会の下位にいる者だった。   男は踵(キビス)を返し―― 「……緋恋様は緋依様に恋心を抱いているようです」 元老会上層部に密告した。 ―――――――  緋恋が王室から出ていったのを見届けたあと、緋花は床に座り込み、膝を抱え泣いていた。 『なかったことにして……変わらずに……っ、私の息子でいて……お願い……』  緋恋が苦しむとわかっていても、緋花は変わらない関係を望んだ。  緋恋の気持ちを"なかった"ことにしたいと望んだ。  緋花が望んだことは、母親なら当たり前のことであっただろう。  しかし、今の緋花は緋恋への罪悪感でいっぱいだった。 『わかりました』  そう答えたときの緋恋の顔が、緋花の頭から離れないのである。  泣きそうで…でも泣かなくて。  無理しているとわかる笑みを貼りつけ、緋花の望み通り"なかった"ことにすると緋恋は答えた。  緋花は緋恋を愛している――勿論、息子として――だからこそ、緋恋の気持ちが緋花には痛く、苦しかった。  緋花は額を膝から離さないまま緋恋に噛みつかれた自分の首筋に手で触れ、――牙の跡を消した。
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