王家の秘密

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「――え?」  緋依と緋恋の"成獣の儀"の翌日。  資料を片手に城の中を歩く緋花を、騎士団の腕章をつけた黒豹の女が、呼び止めた。 「元老会の使者の者が、緋花様に大切なお話があるとのことで門の前にいらしております――どうなさいますか?」 「……」 「もしあれでしたら、私どもで追い払いますが」 「……いいわ。城内には入れないで、門の前に待たせておいて」 「しかし、」 「この資料を片付けたら私も行くから」  “事”以来の元老会の接触に、緋花は何となく嫌な予感がした。 ******  緋花が転移術で城門の前立つと、先ほどの黒豹と共に、二匹のヴァンパイアがいた。  二匹とも灰色のマントを着用しており、一目で元老会の者だということがわかる。  一匹が緋花たちに気がつき慌ててその場に跪くと、もう一匹も同じように慌てて跪き、此方に向かって頭を垂れた。 「いったい、元老会が私に何の用かしら?」  緋花が警戒気味に低い声で問いかけると、二匹はビクリと体を震わせた。 「じじじ実は、わわわ私どもにもわかりません!」 「……」  最初に緋花に気がついた男が、噛み噛みになりながらそんなことを言うから、緋花は思わずズルリとよろめきそうになった。  すると、噛み噛みの男の横にいるまだ若い女が懐に手を突っ込んだ。  警戒をみせた黒豹が、眉を潜め女に一瞥を向ける。  女が懐から出したのは、文だった。 「緋花様にコレを渡して来いとの命を承けました。内容は、私どもも存じ上げておりません。申し訳御座いません」  噛み噛みの男よりも、数段しっかりしているらしい女に感心しながら、緋花は女から文を受けとった。  紐をほどき、丸められていた文をその場で広げ――緋花は、絶句した。
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