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「……この手紙を書いたのは誰?――答えて」
緋花が問いかけたことに女は答えてはならなかったのだろう。
「会長です」
「おい!?」
あっさりと答えてしまった女に、男が非難の声を上げた。
だが女は男の声に全く反応を示さず、ただ虚ろな目で、緋花の瞳を見つめている。
女の様子と二匹のやりとりで、黒豹は緋花が女に何をしたか理解した。
(――支配化)
『支配化』――緋の瞳に備わっている力であり、支配化されたヴァンパイアは緋の瞳を持つ者に、どんな命令であろうとも逆らうことは出来ない。
ただし力を使うには条件があり、相手が緋の瞳を見ていることと、相手がヴァンパイアであることである。
――言わずもがな、女は条件をクリアしていたが。
今、緋花に「死ね」と言われたとしたら、女はなんの躊躇いもなく自らの心臓を抉り取るだろう。
黒豹は、緋花がまた"暴走"してしまうかもしれないと、騎士団の増援を呼びに行こうとした。
しかし。
「動くな」
緋花の低い声に黒豹はびくっと肩をあげ動きを止めた。
緋花は黒豹の方に顔を向け――「…大丈夫だから、動かないで」と、いつもの優しい口調でそう言った。
「……はい、申し訳御座いません」
固まった黒豹がその優しい声にほっと胸を撫で下ろし、踵を返して元の位置に戻ると、緋花は再び女に視線を向けた。
「お前は文の内容を本当に知らないの?」
「……いえ、知っております」
「……。他に、誰が知っている」
「……元老会上層部の方々は、皆ご存じです」
「そう…」
緋花は眉を潜め、女から手を放した。
解放された女がドサリと下に倒れた。
緋花は女に目もくれず、地に手をつけた。
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