王家の秘密

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 緋花が手をついた地から、黒く大きな球状の異空間が現れ、球の中から大きな影と小さな影が一つずつ、無駄のないスマートな動きで這い出てきた。  影が完全に球から抜け出すと、音をたてることなく異空間は消滅した。 「!」  その影たちの正体に気がついた黒豹は、目を見張り、喉を鳴らした。   「……そろそろではないかと、思っておりました」  しゃがれ気味の低い声を発したのは、大きな影。  長身で、見るからにがたいのいい、威風堂々とした男だ。   「……」  一方小さな影は、身長は低く小柄で俯きがち。 男とは対象的に、消極的な者に見える。  しかし、二匹とも灰色のマントを着て深くフードを被っているため、その顔を見ることは出来ず、男か女か判断するのは難しい。  二匹のマントの左胸部には、しゃがれた声の男には黒の、小柄な者には朱の糸で刺繍が施されている。 「会長……副会長」  その刺繍を見て、黒豹と同じくこの二匹の正体を察した使者の男は、ガチガチと音をたてて歯を鳴らし、怯えの表情を浮かべた。  使者の男の言葉から察するに、どうやらこの二匹は、元老会の会長と副会長らしい。  二つの影は、落ち着いた動作で緋花へと跪き、頭を垂れた。 「……説明して」   緋花の問いかけに、しゃがれた声の男が「はい」と答える。 「成獣の儀の後、抱擁される緋依様と緋恋様のお姿をお見かけした、との報告をお受けいたしました」 「……緋恋と緋依は、元々仲がいいわ」 「我々も最初はそう思い鼻をならしたのですが……その者から話を聞くと、どうも御二方の雰囲気が、異常であったと」  男の言葉に眉を寄せた緋花は、ひらひらと紙を揺らし、文を男に見せる。 「まさか、直感だけで決めつけるつもりではないわよね……緋恋が、緋依に恋心を抱いているなどと」
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