王家の秘密

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 一匹だけ文の中身を知らなかった黒豹が、思いもよらない緋花の話に、大きく目を見開いた。  また、その内容が真実でないことを"知っている"緋花は、会長らに軽蔑するような、批難の眼差しを向ける。  ところが。  しゃがれ声の男はフードの下から覗かせる口元で弧を描き、ニヤリとした意味深な笑みを浮かべた。 「根拠でしたら、ございます」  緋花の中に、戸惑いが生じる。 「報告した者によりますと、抱き締められた緋依様の首に"牙の跡"があったそうです」 「!……牙の、跡?」  緋花は無意識に、自分の首筋に手をあてた。 「はい。我々が確認したところ、確かに、緋依様の首筋には牙跡(がせき)がございました」  ――しゃがれ声の男の言うところの牙跡とは、緋依が自ら庵に吸わせたときのものであった。  しかし、昨日緋依と緋恋を目撃してしまった男は、その緋依の首筋にある"牙の跡"を発見した瞬間、緋恋が緋依から吸血したと、誤解してしまったのだ。 「昨日まで吸血の快感を御存じなかった緋恋様が、緋依様へ吸血欲求を抱かれる……それは、緋恋様が緋依様に恋心を抱いていらっしゃると考えるのが、妥当ではないでしょうか?」 「……っ、」  緋花は僅かに口を開き、何か言いたげな表情を浮かべたが、何も言わずにその口を閉じた。 「もしそれが真ならば、禁忌に触れます……故に、我々は早急に手を打たねばならぬと判断致しました」 「……牙の跡が、緋恋によるものとは限らないわね」 「それは、」 「くふっ」  しゃがれ声の男が、不自然なところで言葉をピタリと止め、視線を右に向けた。    ――沈黙を貫いていた小柄な者が、肩を揺らし笑っている。
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