王家の秘密

22/29
前へ
/157ページ
次へ
 称賛され美しく咲き誇っていた花も、いずれは土へと還る。  永遠の美しさなど存在しないこの世界では、それは自然の摂理であり、必然である。    新しい芽吹きのために散る花は、あまりに儚く、だからこそ、美しい。  しかし――。  “もしも我々の考えが外れ、緋依様の牙跡が緋恋様によるものでないのであれば……先ほどから、緋花様が何度も触れておられるそのお首の"牙の跡"こそが、緋恋様によるものでしょうか?”  ――枯れることなく他者にもぎ取られた花弁の姿は、あまりにも、無惨。  唖然とした表情を浮かべてしまっていた緋花は、「やはりそうでございましたか」と笑うしゃがれ声の男に、己の失態を激しく悔いた。 「我々は、以前から緋恋様が緋花様を慕っていらっしゃるのではと思っておりましたので、特別驚きはしておりません」   対して、しゃがれ声の男は、まるで幼子に慰めをかけるかのように声を和らげる。 「っ、な」 「何を、馬鹿なことを申していらっしゃるのですか? 憶測で語れるものではないでしょう」  反論しようと口を開きかけた緋花の声を遮ったのは、話を飲み込むのに出遅れていた、黒豹の女だ。  批難するような眼差し、軽蔑するような声。  しかし皮肉にも、黒豹の女の言葉に胸を痛ませたのは、元老会側ではなく緋花。   「そう、それはあくまでも我々の単なる憶測にすぎませんでした……しかし、緋花様ご自身がそれは事実なのだと、明かしてくださったのだ」
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加