王家の秘密

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 緋花の首筋には、牙の跡などない。  だが、緋花が無意識に首筋に手を触れていたこと、また、しゃがれ声の男に『牙の跡』とカマをかけられ緋花が反応してしまったことで、元老会の者は確信を得てしまったのだ。 「先ほども申し上げましたが、憶測が真実だとわかった以上、我々は手を打たねばなりません」 「……」  緋花は瞼を閉じて、どうにか反論を思い浮かべようとする。 「……」  だが、何も思い浮かばない。  やがて緋花は、瞼を開けて再度手に持つ文に目を落とすと、覚悟を決めたかのように顔を引き締め、苦々しげな口調で言った。 「……文に書いてあることが策だと言うのなら、私は認めることが出来ないわ」 「緋花様!?」  それは、緋恋の想いを認めたともとれる言葉。  黒豹の女が目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべる。 「……最善策だと思うのですが」 「最善なのは、お前たちだけでしょう」  しかし、元老会の者たちはおろか、緋花でさえも黒豹の女の声に反応を見せなかった。 「ひとつ、緋恋様の記憶から緋花様への想いを消す。ふたつ、想いを消さない代わりに緋恋様に罰を与える。みっつ、緋恋様と緋依様に婚約者を定める……これらの中からひとつ選びさえすればいいのですよ?」 「どれも……前代未聞だわ」 「くふっ」  緋花の言葉に、またもや小柄な者が大きく肩を震わせ反応した。 「それは当たり前でございましょう?くふっ……王子が王妃に恋心を抱くという滑稽なことこそが、前代未聞なのですから、くふふ」
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