王家の秘密

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 小柄な者の声は、女か少年か判断が難しい、少しだけ高く、無邪気な声。 「……」  その無邪気な声の主に愚弄された緋花は、唇を強く噛み締め、小柄な者を睨み下ろした。 「……会長、」 「はいはい、黙ればいんでしょ?副会長様」  しゃがれ声の男――元老会副会長――がたしなめるような口調でそう言うと、小柄な者――元老会会長――は、肩をすくめておどけてみせた。  緋花も黒豹も、二匹とは以前にも面識があったから驚いていないようだが、二匹が会長・副会長と名乗ると、多くの者がしゃがれ声の男を会長だと思い込み、実は逆だと知って、驚くのだ。  見た目もそうだが、会長の話し方の幼さも、一因である。 「緋花様、我々は……いえ、私は、最善策の中でも、三つ目が一番だと思っております」 「……」  何故、と聞かずとも、緋花も副会長の意見は理解していた。  まずひとつめの選択肢、緋恋の記憶を奪い取る行為は、同時に、緋恋の王位継承権の剥奪を意味する。  “緋花への想い”だけを抜き取るなど到底不可能であり、記憶を消すイコール緋花の記憶を消す、つまり母親が女王だという記憶を緋恋から奪わねばならないからだ。  今、緋恋から王位継承権が剥奪された場合、移る王位継承者の緋依にかかるリスクが、あまりにも高すぎる。  次に、ふたつめの選択肢、緋恋に罰を与えるの“罰”とは、禁忌への罰としておそらく杭打ちの刑……もしくは、火あぶりの刑である。  禁忌に完全に触れたわけではないから、死まではいかないだろうが、十五年間は止まらない絶叫と、痛み、悶え苦しむことを避けられない。  もちろん緋花は、緋恋(我が子)のそんな姿を見続けたくなどない。  ――自然と、残る選択肢は、ひとつ。 「婚約者とはいっても、緋恋様が他の者へ気持ちが移るまでの、所謂仮の婚約者」 「……」 「その婚約者となる者をお選びになったのが、緋花様であると緋恋様の耳に入れば、緋恋様はとてもとても悲しまれることでしょう」 「……」 「ですが、緋花様への想いを断ち切る“きっかけ”になるやもしれません」 「……」 「それが緋恋様の為であり、皆の為であり、トアの為なのでございます」 「……」 「何の問題を残すことなく、この問題は解決致します……我々は、これほどいい策はないと思っておりますが――」
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