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賑やかな遊園地の放送が急に遠のいたみたいで、僕らはそうやって手を握ったまましばらくお互いの目を見詰め合った。
「次は観覧車に乗ろうか?」
岳ちゃんがちょっと照れたみたいに笑って言った。僕が頷くと、岳ちゃんは僕の手を取ったまま、観覧車の方に歩き出した。握られた手が温かくて、僕は以前に抱きとめて貰った時に感じた岳ちゃんの胸の温かさを思い出していた。
「平気?」
観覧車が高く上ると岳ちゃんが心配そうに聞いてくれたけど、僕は笑って「平気だよ」って答えた。スピード出してグルグル回ったり、逆さ吊りになるのは怖いけど、僕は高い所が苦手ってわけじゃない。
「なーんだ、そうなんだ。」
岳ちゃんがちょっとがっかりしたみたいな顔をしたから、僕は首を傾げた。
「怖いって言って俺に抱きついてくれるかと思ったのに。」
心臓がドキって音を立てて、身体もピクって動いた。岳ちゃんは笑顔だったけど、僕を真っ直ぐに見詰める眼差しは真剣で、僕は岳ちゃんの目線に絡められたみたいに固くなった。
「こっちにおいでよ。」
そう言って岳ちゃんが僕に手を伸ばした。もう観覧車はずっと上の方まで上がっていて、立ち上がった途端にふらついた僕を岳ちゃんが抱きとめてくれた。
「今日は俺に付き合ってくれてありがとう。今度は誠人の好きな所に行こうな。」
岳ちゃんには僕の返事は聞こえなかった。返事をしようとした僕の口を岳ちゃんが塞いだから。
高校1年生の夏。
初めてのキスはコーラの味がした。
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