揺光

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  きちんと着ればそれらしくなるだろうに、シャツのボタンは余分に開けられており、聖職者であるところの教師におよそ似つかわしくないアクセサリーがその開けた胸元に光っている。 これの種類はいくつもあり、だいたい日替わりでその胸元におさまっていたため、去年は生徒内で『今日の先生はどのアクセか』を当てる遊びが流行ったことがあったくらいだった。 長めの髪はボサボサとまでいかずとも、癖が強いのか毛質が堅いのかばっさりとした印象で、男性的というよりは無頓着に見える。 砕けた口調も、垂れ目がちの目元も、彼を『はっきりしない』ように見せるのを手伝っていた。 黛嵩哉とは、おおむねそういう印象を周囲に与える教師である。 名前と担当科目だけの適当すぎる自己紹介を終えた彼はさっそく次の段階に進もうとしていた。 しかしそれに異議を唱えるかのように、天を貫くかのごとくひとりの生徒の右腕がびしりと上がる。 「せんせー! 俺去年塚原先生だったんでー! 噂のまゆずみせんせーの詳しいプロフィールが聞きたいでーす!」 当てられるのも待たずに声を張り上げたのは、見るからに軽薄そうな男子生徒だった。 黛の適当さを知っていてなおかつあまり好意を持っていない安土は、物好きもいたものだなあ、とある種感心に近い感情を抱いていた。 安土は謙虚で卑屈である以前に不器用だ。 自分が『尊敬できない』と思った相手に対して卑屈さや謙虚さを発揮させることはほとんどなく、むしろ相手を蔑ろに扱うことさえあった。 そこにカテゴライズされるのは極めて少数だが、黛はその極めて少数、の中に見事ぶち込まれている。  image=454227922.jpg
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