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手をぶらぶらさせ始めた男子生徒に目線を注ぎ、顔を認めるなり黛は眉を顰める。
「うっせ黙れ牛丼屋。嘘吐くな。補習で見たから知ってンぞ、お前。忘れてると思ったか?」
「牛丼屋じゃないです! 吉野でーす!」
安土は心底呆れた。
といのも、彼が黛を尊敬に値しないと評したのは、安土の事を妙なあだ名を付けて呼ぶからだった。
「ほら、自己紹介したいのはお前らのほうだろ? あー、んー、やすどは知ってるからいいや。出席番号ラストから……って渡辺も去年俺のクラスだったな。ええと? じゃあここから順番に――」
だからやすどじゃなくてあづちだと。
誰かれ構わずあだ名を付けてくる人は先輩にもいたが、黛のそれとは質が違う。
先輩のそれが好意の表現とするならば、黛のものは適当さの表れだ。
本質の部分がどうであれ、安土はそういうふうに受け止めていた。
ともかく、吉野という生徒の発言と態度を逆手にとった黛は、結局自分のそれ以上の自己紹介をすることはなく、生徒同士の自己紹介タイムへと切り替えることに成功している。
ああどうしよう、何て言おう、安土の悩みはそちらにシフトすることとなった。
といっても最初に当てられた生徒が当たり障りのない定型文的な自己紹介しかしなかったため、2人目、3人目もそれに倣うかたちで自分の名前を告げていく。
考えるだけ杞憂だった。
6番目に当てられた安土もその波に乗る形で、当たり障りなく自己紹介を済ませることができた。
しかし予想通り途中から活発な生徒が自己流でアレンジを加え始めたので、自分から当たってトップバッターになったり渡辺から当てられて自分が最後になったりしなくて良かった、と胸を撫で下ろす。
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