揺光

13/36

399人が本棚に入れています
本棚に追加
/1152ページ
  そうしてある者は当たり障りなく、ある者は笑いを取りに走って教室を沸かせ、ある者はどもって滑り、恙無く自己紹介は終わりを向かえる。 「あ。悪ィ。忘れてた」 最後の生徒が自己紹介を終えたところで、黛が目を丸くした。 忘れてた? 始業式にやることなんてたかが知れているし、今やらなくてはいけないことも特に思い当たらない。 教室内の生徒達が不思議がるが、一部の生徒はなんとなく予想を付けていた。 黛はそれきり何か付け足すこともなく、教室を出てしまう。 否、教室を出てすぐのところで待機していた『誰か』を呼びにいった。 「まあお決まりのイベントっちゃーお決まりなンだが。転校生」 黛に招き入れられたのは男子生徒だった。 二年ともなれば、ブレザーやらリボンタイやらもさすがに若干くたびれてくるものである。 しかし彼の纏うそれらや鞄は新一年生だった頃を思い起こさせる新しさで、つまり彼がこの制服を着始めて間もないことを意味していた。 身長は、長身に分類される黛と同じくらい。 高校生でありながら男性的逞しさも兼ね備えた、まさに理想的な均衡のとれた体格の少年だった。 主に女子生徒から、感嘆のため息のような声が漏れる。 「悪ィな、呼ぶ順番がおかしかった」 「いえ、大丈夫ですよ、何人かは外にも聞こえてましたんで。顔が見えなかったからほとんど忘れちゃいましたけどね」 さっぱりとした爽やかな笑みをその顔に浮かべ、肩を竦めながら黛の不手際を流す。 言いようによっては皮肉に聞こえる『ほとんど忘れてしまった』という言葉も、嫌らしさを感じさせずただおどけてみせたように見えた。  
/1152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

399人が本棚に入れています
本棚に追加