揺光

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  そういえば自己紹介中、空席があったと安土は思い出す。 てっきり誰か欠席しているのかと思っていたがそうではなかったらしい。 「那賀朋之(なが ともゆき)です。今先生に紹介されたとおり転校生で、えーっと。思ったよりでっかい学校でちょっとビビってます。色々わからないんで、何か聞いたら優しく教えてくれると嬉しいです」 那賀と名乗った転校生は人懐っこい笑みを浮かべながら、さほど緊張した様子もなく自己紹介と挨拶をさらりと終えてみせた。 転校慣れしているのか、それとも肝が据わっているのか、さっきの自己紹介を聞いて緊張が緩んだのか。 さまざまな憶測が生徒達それぞれの胸の中を飛び交うが、那賀はただ新しい環境に期待しているかのように目線をあちこちせわしなく動かしては教室の中を眺めていた。 そして、さっき涼子の言っていた『余っている人』に那賀が合致することに気が付いた安土もまた、期待にはやる気持ちを隠せなかった。 『新しい人』は『余る人』だ。 ただ問題は、同じ『余る人』でも『新しい人』は引く手あまたであることだ。 しかし急ぐ必要はない。 彼がこのクラスに溶け込むのよりきっと自分の方が遅いだろうとはいえ、それならむしろ向こうから来てくれる可能性だってある。 がっつく性分ではないし、那賀とはゆっくり知り合えばいい。 その頃には『余る人』ではなくなっているかもしれないが、縁が紡げないわけでもないのだから、瑣末なこと。 安土は、新しい出会いに恐れを抱かなくなったとはいえむしろこんなにも期待していることに自分で驚いていた。 それはどうしてだろう、と考えてみてふと思い当る。  image=450625408.jpg
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