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その号令によって開放された生徒達は、那賀の周囲に人だかりを作る。
もっぱら男子。数人は女子。
質問の嵐を笑顔で受け入れて応じる那賀の姿は、彼が第一印象で好感を得ることに成功した新入りであることを示していた。
この調子なら一学期のうちに、転校生であったことも忘れられてしまうくらい馴染みそうだ。
だけど今はあの輪に突っ込む勇気はないな、と一瞥し、さて早めに校庭に出ようかと立ち上がったとき、黛から呼び止められる。
「ああおい、やすど。ちょっと」
あづちです、と訂正しながら、安土は黛の二の句を待つ。
安土と行動を同じくしようとしていた涼子がその後ろで戸惑って立ちすくむが、二人にそれを気にかける様子はなく、彼女は所在なく待つことを余儀なくされた。
大抵の場合、黛が誰かに個別に声をかけるのは成績のことで、補習講座を開くから参加しろといったものだ。
しかし安土にその心当たりはなく、心当たりがあるとすれば安土にのみ限って『大抵の場合』になる用件だった。
担任であり部活の顧問である黛とは接する機会が多いため、なにかと雑用を言いつけられる事が多い。
またその類なのだろうと、安土は眉根を寄せる。
といってもその雑用のほとんどが、成績の芳しくない生徒のための補習の準備で、黛本来の仕事ではなく生徒を想ってのボランティアなのだから強く責める気が起きないでいた。
適当そうに見えて根底は生徒想いの教師であるだろうことは、安土も認めている。
準備くらい自分でやってくれ、とは思うが。
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