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「……ちょっと自信ないなあ」
黛の気配もすっかり薄れた頃、教室の喧騒に紛れそうになる程度の声で呟いた。
そういった不安を吐きだすことも一昔前はできずにいたが、今や自然と漏れる程度に肩の力は抜けている。
「大丈夫だよ。その、私で手伝えることなら手伝うし……」
「ありがとう。っていうかなんでオレにだけ頼んできたんだろう……? 一之瀬さんだって、ここにいたのにね」
不思議そうな顔をしながら、安土は首を捻った。
それはそうだろう、と涼子は心の中で反論する。
手伝えることなら、と口にはしたが、実際大したことができるとも思っていない。
できたとしてもせいぜい同行するくらいだが、それはそれで遠慮したいとも感じていた。
『ピアノ王子』と『転校生』という男子二人と同行して平然としていられるほど、図太くはない。
本当にこの人は、友達というカテゴリ内において男女を区別する気がないのだと、言葉の節々から滲んでいるのを認めざるを得なかった。
それと同時に、自分自身も友達という分類に収められていて、そこから昇りも下りもしないだろう、ということも。
「あの様子ならオレを頼ってくるってこともないか」
教室の中心にはまだ人だかりが出来ていて、さながら逆ドーナツ化現象とも言うべき状態になっていた。
あれだけいればひとりぐらいお節介がいるだろう。それならば、自分の出る幕などありはしない。
「外、いこっか。成宮さんいるかもだし」
去年通り、といかなかったひとりの名前を挙げて、涼子は安土を促した。
それが少し卑怯な手段であることも、ほんの少しだけ理解して。
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