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朝。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな四月の朝日が意識の覚醒を促す。
それに追いつかず未だ覚醒しきらぬ体を活動モードへと切り替えるべく、上体を起こして伸びをひとつ。
保険がてらセッティングしておいた目覚まし時計は、鳴るべき時間より前を示している。
習慣とは侮れないもので、保険は保険としての役割を果たすことなくスイッチをオフへと切り替えられた。
寝起きに不便しない程度には暖かくなったが、朝方はまだ少し冷える。
さっさと着替えてしまうことにしよう。
鮮明さを増してきた意識の中で、彼はタンスを漁るより前に今日の日付を思い起こした。
始業式だ、と。
寝巻きから制服のワイシャツとスラックス、それからセーターに着替えた彼は、ブレザーをリビングのハンガーに引っ掛けて母と挨拶を交わしてから、身支度を整えるために洗面所へと向かった。
目的地に近づくにつれ、なにかごうごうと、機械的な風の鳴る音が大きくなる。
普段ならいるはずのない先客がいることを悟ると、ドアを開けずに指の節でそれを数度叩いた。
「はーいはい、どぞー」
呑気な女性の声が返ってくる。
予想外の先客だが、誰であるかは予想通り。
許可を得た彼がそっとドアを開けるが、すぐさまそれは勢いよく音を立てて閉められることとなった。
「……せめて服くらい着てから言ってよ!」
「だいじょぶだって。家族なんだしさ」
「家族って言っても、最低限必要なラインってものがあるよね!?」
咎めるだけ咎めて、ため息をひとつ。
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