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安土もその例外ではなく、意識は壇上の教師の話す内容よりも別のものへと移っている。
(――部員、増えるんだよね。きっと)
一年生が入るということは三年生が出て行っているということだ。
実際に、去年部員として時間を共にした三年生はもういない。
部活自体が変わらずそこにあろうと、それを構成するメンバーは一年単位で流動する。
安土は中学時代、部活に入っていなかった。
『先輩』になるという感覚を知らず、戸惑いすら感じていることを自覚してしまい、なんて頼りないことだろう、とまた自分を責めて肩を落とすまでがワンセットとなる。
彼の所属する部を考えれば、必ず後輩が入ってくるとは限らない。
しかし、部の存続において人員は不可欠なのだから学年に穴は開けるべきでない、というのが仲間たちの意見だった。
おそらく、なんらかの形で新入部員を捕まえに行くのだろう。
何を隠そう安土自身、そうして勧誘に来た先輩に拾われたのだから。
思えば奇妙な縁だった。
あのときあの場所で出会ったのは完全に偶然で、一度撥ねつけようとしたにも関わらず、彼らは予想外の行動をもってして安土の警戒を解くに至ったのだ。
その結果、部活によって救われることとなる。
他にもそうなる人がいるかもしれない。
自分もなんらかのかたちで人の力になりたい。
どれだけの奇跡が自分を取り巻いていたのかを改めて感じ、感謝せずにはいられなかった。
願わくば、自分も誰かを取り巻く奇跡になりたい。
そこまで想いが至ったとき、安土の胸の中で『がんばろう』という前向きな気持ちが芽を出した。
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