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そうして、始業式だなんてものは大半の生徒の印象に残らぬまま過ぎ去ってゆく。
その名の通り単純な儀式なのだ。大事なのはその中身ではなく、行った事実のみ。
教師陣にとっては真逆の態度をもって臨むべき儀式だが、それと同じだけの意気込みを生徒に強いることができるほどの魅力もやりがいもない。
校長から語られた新年度への祝福だって、要約して口にできるほどきちんと聞いていた生徒など半分もいなかった。
陽光暖かなグラウンドからそれぞれの教室へと引き返せば、つい一時間前と比べるとやや眠そうな顔が目立つ。
安土のように春休みすら規則正しい生活をしていた者など少数派で、大半は一ヶ月足らずの時間をかけてリズムを狂わせていた。
彼らの睡眠欲が意識を蝕むことなど、春の陽気という魔力の後押しを受ければ造作もない。
「ほいお疲れ。ンじゃまあ、委員会決めてくか」
しかし三限はHRとして、やることがあるからわざわざ時間が設けられているのだ。
果たして殊勝な構えで臨んでいたか疑わしい黛の進行によって、生徒達は散漫な意識を束ねなくてはならないことを悟るのだった。
こういったときに、安土は積極的なタイプではない。
誰かがやらなくてはならないことなのか、誰かがやりたがっていることなのか判然としないからだ。
前者なら自分がどんな役割を当てられようと、できる範囲ならば構わない。
しかし後者ならば、自分が出しゃばったがために望みが消えてしまう誰かが生まれてしまう。
普通の生徒がおよそ考えもしないような心配を抱えて、安土文明という少年は控えめすぎる姿勢を貫いていた。
そうしてまた今年も、特になんの役割も担うことがなかった。
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