揺光

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  「ふーん。変なこと言って悪かったな。見てたら随分仲がよさそうだったから、てっきり」 そう言った那賀の視線は涼子に注がれている。 平然とした様子の安土とは対照的に、どこか後ろめたさを滲ませたような自信のない立姿の彼女の胸中を邪推して、口角をわずかに持ち上げた。 改めて安土に向き直ると、那賀はすらすらと言葉を続けてゆく。 「先生がこんなに言うんだし、クラス委員かなにかかと思ったんだよ。ところが、随分おとなしいみたいでさ」 そっちの子が風紀委員になったから、と涼子を指し、その手のソリが合う彼氏ってとこなのかなーと思った、と付け足した。 そうだったとしても暴論に近い予想だが、安土が周囲に与える印象と黛から那賀に伝えられた信頼の間に齟齬が生じていたのも事実である。 「あの人が変なんだよ。オレ、そんなんじゃないし。全然……」 「まあ、そいつを抜きにしても、だ。単純に俺は安土に興味が湧いた」 人差し指と親指をぴんと立てると、手で銃を形作るようにして安土を軽く撃ち抜く。 初日にしてはひどく砕けた態度に、安土は僅かな警戒を走らせた。 親しみのある態度と馴れ馴れしさは違う。 単純に興味を抱いた、と言われたところでいい気分はしなかった。 かつて自らを苛んだ奇異の目は、乗り越えた過去とはいえ今再び向けられても笑って受け入れられるというわけではない。 もし那賀も同じであるとするならば、彼は転校生に親切にするより自らの精神を守る選択をするだろう。  
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