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三人は再び階段を上りながら話を続けていく。
「そりゃ楽しみだ。俺んちより快適だったらどうしよっかね」
実際、調理を扱う文化部の数が家庭科室のキャパシティを越えてしまったがために簡易的な台所が設置されている部室もある。
中の模様についてはそれぞれの部活の自由とされているため、本棚などは初級レベルとして、冷蔵庫から折りたたみの簡易ベッドまでさまざまなものが持ち込まれていた。
同じ間取りでも中身は多種多様、それこそ自室のごとくくつろげる空間を作り上げてしまっている部活も少なくない。
体育館や校庭脇、プールなどにシャワー室があることを鑑みると、もしもの場合に一夜を快適に過ごすことは決して不可能ではなかった。
とはいえ部室に泊まることは禁じられているうえにもしもの事態も起きないため、泊まり込みは実現されていない。
「『俺んち』……って、一人暮らしなの?」
けらけらと笑う那賀に対し、涼子は初めて口を開く。
少しだけの驚きと緊張を孕んだその声に、彼は軽々と応じた。
「まあね。家からも通えるけど、一人暮らししてみたくてさ」
「え? 一人暮らしに転校なんて、随分環境が変わっちゃうじゃない……大変でしょ」
眼鏡の奥の瞳が驚きに見開かれ、語調には心配の色が混ざり始める。
涼子は基本的に保守的な性格だ。
その場の流れを読み、それに乗ることは上手くても、変えることや異議を唱えることは苦手としていた。
それは自分の環境においても同様で、周囲からの力添えが無ければ変われない。
自発的に変革を望むなどよほどのことがなければありえなかった。
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