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姉はいつもこの調子だった、と改めて痛感すると、それ以上言うのはやめにした。
是正しようにも敵が強すぎる。
考えて頭痛を誘発させるよりは、流したほうが遥かにマシだ。
「洗面所は二階の使うからもういいよ。ピンだけ渡してくれる?」
「え? ヘアピンいるの?」
彼の要望に返ってきたのは、要求したものではなく姉の素っ頓狂な声だけ。
はた、と思い出す。
そういえば、『もういらない』のだった、と。
「文明、昨日髪切ったばっかじゃん」
「……そうだった」
姉が占拠している脱衣所兼洗面所を使う理由が薄れたこともあって、それは諦めることとし、やや使い勝手に劣る二階の洗面所へと移動した。
鏡を見る。
安土文明16歳。
身長、平均よりやや高め。
色白で体格は華奢。肌を、というよりは体型を晒すことを嫌がるきらいがあり、夏場も頑なに長袖を着続ける。
運動神経はお世辞にも良いとは言えないが、持ち前の性格によってどうにか平均レベルに喰らいつけるだけの成績は修められていた。
勤勉で努力家。不器用で嘘は付けない。およそ変わり者が多いと吹聴されるAB型。周りから予想として言われるのは高確率でA型。稀にO型。
これだけならば、どこにでもいる高校生だった。
正面から見据えたそこに映るのは見慣れた自分の顔。
別段特別な容貌でもないと自己評価を下してはいるが、周囲からの評価がそれと同じではないということを彼は把握していない。
それに限らず、安土文明という人間は謙虚だった。
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