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那賀はふっと口角を持ち上げる。
「変えたかったんだよ」
きっぱりとした、芯の通った声だった。
目指したのは涼子とは真逆の道。
しかし誇らしげというよりは自嘲を多分に含んでいるそれを見せぬように顔を背けながら、まるで思い出話をするかのようにこう続ける。
「俺、部活推薦で入ってるから」
「え?」
「それなら、もう入る部活決まってるんじゃ」
安土と涼子の間に疑問と困惑が広がる。
自分たちの部活への案内も相談も必要ない。
彼が行くのはこんなところではなくて、その目当ての部活であるべきだ。
「そういう大事なことは早く言ってよ、どこ?」
少し困ったような顔をしながら抗議の声を挙げ、安土は階段を降りようと身体の向きを変える。
今まで前に居た安土と、那賀が向かい合うかたちとなった。
ところが那賀は階段の中腹から動こうとする様子もない。
予想通り、と言わんばかりに肩を竦めると、今度こそ自嘲的な笑みを貼り付けた顔を二人に向けた。
「ってのは、前の学校の話。部活やめたから必然的に学校にもいられなくなったっつー寸法よ」
ふうと一息置く。
それは呆れたようなため息。
腰に手をあて重心をずらし楽な姿勢になると、那賀は数段上から自分を見降ろしている安土の空色と濃藍の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「俺、どの部活にだったら『いられる』のか自分でわかんねぇわけ。先生の見立てじゃ、お前を頼っていいんだろ?」
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