揺光

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  どういうことだかわかんねえけどさ、と続ける。 数段下に立って自分を見つめる那賀を見降ろしながら、安土はなんとなくを理解した。 ――那賀君はオレと同じなのかもしれない。 だから先生はオレに頼るように指示したのか―― きっとこの口調では、彼が前の学校で『やっていたこと』を続けられなくなったのだろう。 その理由がなんであれ、今の那賀が行き場を失くしていることは事実。 同じように行き場を見失っていた安土を拾ってくれたのは今の部活だったのだ。 黛の回りくどい言葉は、那賀を拾ってやれという意味だったのかもしれない。 いつか自分がそうして救われたように。 「分かった」 安土の返した言葉に、はっきりとした意思が籠もる。 普段あまり通っていない芯がぴんと通って張り詰めたような声だった。 「それならやっぱり、オレたちのいる部活にまず来てみてくれたほうがいいと思う」 強制はしないけど、と付け足してみても、それは決して自信のなさから現れるものではなく、那賀の意思を尊重してのことだ。 那賀の顔から笑顔が消え、真剣味を帯びる。 ほんの数歩、数段の物理的距離から引き離すがごとく、ガラス一枚隔てたような距離感が生まれた。 それは那賀の軽薄な仮面が剥がされたことを意味する。 これも同じ。 周囲に心を閉ざしていた安土もこうだった。 それならば、溶かし方を知っている。  
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