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「あんまりもたもたしてるとその先輩が先に帰っちゃうかもしれ――」
「何してるの、そんなところで」
ふいに那賀の後ろ、つまるところ今しがた階段を上ってきた誰かが声をかけてくる。
さっぱりとした、女子にしては少し色気の足りないよく通るその声。
その主こそ、安土と涼子両人からアテにされていた『先輩』のひとりだった。
「じ、陣野先輩! こんにちは……あれ、今日ゆっくりめですね」
「こんにちは。そりゃ今年から新教室棟で遠いからね、普通に来たつもりでもちょっと遅れちゃうよ」
――陣野麻衣。
今年から三年生で、安土達のひとつ先輩にあたる。
さっぱりした考えと面倒見のよさから、不必要なまでに悩みやすい二人には篤く信頼されていた。
さらりとしたミディアムヘアは肩に付くか付かないか程度で、毛先のほうにかけてゆるやかに内側に流れている。
とりたてて華やかな顔ではないが、バランスは整っている『普通』な顔立ちだった。
瑠維とは別ベクトルでスタイルが良いのだが、本人は太っているのではと気にしていることは安土達の知るところではない。
厚みのあるブレザーの下からでもその存在が主張してしまう胸元に、那賀は思わず視線を向けてしまい、すぐさままずいと逸らした。
「おー、安土君髪切ったんだね。……はじめまして。二年生……?」
それを知ってか知らずか、麻衣が控えめに挨拶と疑問を投げかける。
安土と涼子という見慣れた組み合わせはともかく、一緒にこんなところへ居るとは思えない那賀の姿に目を留めたのだ。
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