揺光

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  普段であればこの立ち位置にいるのは瑠維のはずだし、そうでないにしても麻衣の全く知らない生徒と部室棟まで同行するような印象など、交友関係の拡大に消極的な二人にはない。 那賀の上履きとネクタイの色が二年生の学年カラーである青だったため、一応二人の知り合いなのだろうとは思っていたが、それにしては雰囲気がおかしかった。 なにかトラブルかもしれないな、と心配はしても面倒だとは感じていない。 たとえ糸が絡まろうと、ほどいて元通りにすればいいだけのことと思っているからだ。 決して楽観的なわけではなく、考え方の癖でいえばむしろシビアなほうだが、ちょっとした周囲のトラブル程度ならば動じることもない。 年の割に落ち着きがあって、少しばかりおせっかい。 ともかく、陣野麻衣とはそういう少女だった。 自分のこととなると滅法弱いのだが、それはまた別の話。 「……那賀って言います」 そんな麻衣に那賀は再び人懐こい笑みを『貼り付ける』。 仮面の剥がれる瞬間をついさっき目の当たりにした安土と涼子には、那賀朋之という少年がいかにこちらを信頼していないのかを思い知らされた気がした。 謂れのない警戒は笑顔。 初対面仕様とも言うべきそれに、先輩は後輩をなにひとつ疑うことなく微笑んで応じた。 「陣野です。……さてと。ここで立ち話もなんだし、行こうか? 那賀君も、ね」 促され、三人はそのまま麻衣の後ろをついて部室へと向かう。 彼女の口から那賀を拒絶しない意図を告げられたので、安土はほっと胸を撫で下ろした。 先陣を切る者が変わっても、那賀は最後尾から三人を観察するように眺めていた。  
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