思いでの墓標

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  ちくわ部、という得体の知れない集団は、果たして何者なのだろう。 恐怖はない。 不信感と違和感だけが那賀の胸にせり上がり、噛み砕くことができないがために胸の中で燻り続けた。 果たして部活として許されるのだろうか、『こんなこと』が。 「さて、私はお邪魔なら帰るけども?」 「いえ、先輩も……いてもらえますか? よかったら」 さっぱりと切り出した麻衣を、安土は少しだけの逡巡を含んで引き止める。 麻衣は首肯で返すと、次の言葉を待つかのようにじっと安土を見つめていた。 楚々とした振る舞いに、那賀は僅かな居心地の悪さを感じてしまう。 予想通り、麻衣の問いかけは自らの同席について是非を問うものだった。 ――『何故』? ここは『部室』で、『先輩』なのに――? 「那賀君を、どうしたらいいか……考えたいんです」 重い岩のような硬さをもった声で安土が切り出し、ようやく話題は本題へと入ってゆく。 まずは麻衣とも情報を共有し、それからは単純な質問の応酬だった。 前の学校で入っていたのと同じ部活に入るのか。 ――そのつもりはない。 どの部活に入ろうと思っているのか。 ――決めていないし見当もつかない。 運動部か文化部か。 ――決めていない。 なぜこの学校を選んだのか。部活のことは知らなかったのか。 ――偏差値と距離。適当に見つけるつもりでいた。 結局、那賀の返答はなにひとつ答えに結びつかない。 はぐらかしているようにすら思える曖昧模糊とした言葉は、しかし那賀本人の表情が曇りを増していくことで、そうではないと三人に思わせた。 同時に、なにか根の深い問題を隠しているのだろうということも。 しかしそれは言葉や問いかけにすることができず、胸の内側だけにじわじわとしこりを作っていく。  
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