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それでも那賀をなんとかしてあげたいと思っているのは嘘ではない。
しかし、そう思うだけのものと納得させることができるような全うな理由が見当たらないのも確かだったのだ。
安土自身の心の中ではわかっている、自分と那賀を重ねているのだと。
だがそれを那賀にぶつけていいものかわからない。
言ってしまえば同情や同族への憐憫だなんて、自分だったら向けられたくなかった。
そんなことを那賀にしてしまっていることが矛盾しているのは分かっている。
たとえそんな動機かと軽蔑されたとしたって、同じ苦しみを彼が背負っているというのならば、取り去ってあげたい――ただそれだけだった。
嘘は吐けない。
その場を取り繕うだけの建前を並べることだなんて、安土には選択肢にすらのぼらない。
本当のことが言えないならば黙るしかなかった。
結局那賀の言っていることは安土の問いに対する肯定であるにもかかわらず、拒絶の態度を崩すつもりはないらしい。
事態は先延ばしどころか振り出し以前に戻ってしまった。
「那賀君、変なこと聞いていいかな」
それをまた打ち破ろうとしたのは麻衣だった。
この行き詰った状況を打破するにはこうするしかないだろうな、と麻衣は人知れず唾を飲む。
彼のクラスメイトである二人が言うのは、これからを思えば気まずいものがある。
それならば、自分以外に適任者はいない。
「どうぞ」
那賀はまさか麻衣から聞かれると思っておらず、少しだけ動揺の色を滲ませながら応じた。
自分よりひとまわり以上小柄なはずの先輩の視線に射竦められ、なぜだか後ろめたい気持ちがふつふつと沸き上がるのを感じる。
麻衣は那賀から視線を逸らさなかった。
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