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胸の奥がきゅうと締まるような感覚をおぼえながらも、それを表に出さないように努めながら、できるだけ毅然とした態度で麻衣はこう問いかけた。
「前の学校は……部活は、どうしてやめちゃったの? なんだか、今の那賀君はやけになっているように見える」
全ての原因はここにある。
那賀が部活さえやめなければ、前の学校からこの名桜学院に来る事もなく、こうして入部必須問題にぶち当たることもなかった。
それだけではない。
今の那賀は、部活動というもの自体を忌避しているかのようで、事態を解決しようにもそれを困難なものとさせている。
麻衣の向こう側の窓の陽光の眩しさにあてられたかのように、那賀は目を逸らした。
否、麻衣の目を見ることができなかった。
じっとりと粘ついた沈黙が四人を飲みこむ。
それを破ることができるのは那賀だけだというのに、彼は彫像のように口を閉ざしたまま動こうとしない。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
ステップ式ではない時計は音もなく回る。
沈黙は肯定か否定か、少なくともすぐ答えられないくらいには那賀の意思が揺らいでいることになる。
どこか諦観を込めたため息をひとつ漏らしてから、那賀はついに答えた。
「……別に、大した理由じゃないです。ただ……やめるに踏み切った、ってだけで。それ以上でもそれ以下でも」
ぼそり、と言葉が流れる。
それまでの沈黙と同じように、すっきりとしないくせに中身がない粘ついた返答だった。
「うん、わかった」
麻衣のほうはさらりとした了承。
春の日を背に受け逆光の中微笑む彼女に、那賀は今度こそ眩しくて目を細め、安土と涼子は不思議そうな顔をした。
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