思いでの墓標

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  「それで、ね」 那賀の胸中を知ってか知らずか、汲む気があるのかないのか、麻衣は話を続ける。 一定の変わらない明るいトーンに、少しだけ震えが帯びた。 「もし期間中に見つけられなかったらの話なんだけど」 本題とも呼べる仮定の切り出しに、安土と涼子の表情にも緊張が走る。 二人も同じことを考えていた。 那賀が本当に自力で居場所を見つけられるのか、心配でたまらない。 教室で見えた人当たりのいい笑みを貼り付けた那賀であればこんな心配などすることなかっただろうに、少しづつ砕けてゆく仮面の隙間から見えた那賀はひどく頼りなかった。 麻衣は自分の口が渇くのを感じる。 だけどそれを表に出さないように、できるだけ平然と、余裕をもった態度に見えるよう気を張る。 ――しっかりしないと。那賀君だって、このままじゃ後味も悪い――! 「この学校、一回だけなら転部ができるの」 逸れていた那賀の視線がふたたび麻衣のそれとぶつかる。 無言で次の言葉を待つ、それがなんだと言いたげな彼の目から視線を外さないように意識しつつ、麻衣はほとんど間を置かずに続けた。  「まずここに入ってから、ゆっくり探すってのはどう? なんだかんだ他の部に混ざって遊んでた先輩がいたから、きっといけると思う。そうやって『自分で納得できる場所』、ゆっくり探そう? ね?」 焦らなくてもいい。 やけくそになんかならなくていい。 一時的に羽を休める止まり木としてここを使って構わない。 麻衣が言っているのはそういうこと、だった。  
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