思いでの墓標

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  麻衣の容姿からでは、そういい加減な人のようには思えなかった。 制服だってきちんと着ていたし、派手そうなタイプでもない。 どこか適当な文化部に身を置けば内申だってましなものになるだろうに、ちくわ部にいることは彼女にとってそんなにもメリットがあることなのか。 「家の事情だって。ご両親が海外にいるから、家のことをするのにどうしても部活に毎日拘束されるのはきついんだってさ」 別に麻衣も隠していることではないので、安土の口から彼女の事情が語られる。 ふうん、と興味なさそうに呟くと、那賀はぱたりと靴を床に放った。 時が凍ったように静かな下駄箱に、その音はやけに大きく響く。 真新しい制服とは違って多少使い込まれた風合いを持った革靴をつっかけながら、二人へと振り返るとこう告げる。 「俺、コンビニ寄ってから帰るわ。んじゃどうも」 返事も待たず、彼の背中は四月の陽射しの中へと霞んでいった。 それがすっかり見えなくなるまで安土と涼子は下駄箱で立ち尽くしていたが、ぽつりと呟きが零れる。 「……オレ達と一緒に帰りたくない、ってことなのかな」 言われた事は額面通りに受け取ることの多い安土でも、これだけ露骨にされたらさすがに気がつく。 その声色からは悔しさや悲しみや、釈然としない色々なものが混ざって聞こえた。 それらと同じものを胸の内に湧かせていた涼子も、同じように重たい声で呟く。 「やっぱり、私達みたいなのって許せないのかもしれないね」 何故那賀は、ああもこちらと馴染む気がないのだろう。 今まで彼のいた環境を察するならば、それと対極にある自分たちのことが理解できないのもわかる。 しかし、嫌われたにしてはあまりにも中途半端だ。  
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