思いでの墓標

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  真聞部の中でも水谷は特に盗撮技術に長けており、生徒達のデータにも精通している。 どこからか情報を掴んで、1の真実に9の嘘を盛り付けて記事にしてしまう部員ばかりのこの真聞部は、敵に回すとあらぬ噂を吹聴されてしまう存在として若干近寄りがたいものとされていた。 しかしこのちくわ部の関係者を無断でネタにはしないと、前部長たる水谷の姉が誓ったおかげで、上下関係などなく対等に付き合えている。 「那賀君のこと、知ってるんですか」 「まあ、それは……多少」 身を乗り出した安土の視線から逃げるように、水谷は口ごもりながら目を伏せる。 後輩相手にも柔らかな姿勢を崩さない水谷は、その裏でとてつもない情報網を持っていた。 それこそ、中学時代の恥ずかしい話やら、誰かに告白して玉砕しただなんて話まで、何故そんなことを知っているのか理解できないレベルのことすら把握してしまっている。 それは必要なときだけ引き出されるが、情報の刃として脅しに使われることは基本的にはない。 ちくわ部の部員も同じで、よほど切羽詰まっていなければ水谷の情報を利用しようとはしなかった。 卑怯な気がするから、と、誰も口には出さないものの同じように思っている。 水谷もそれを弁えていた。 情報は情報としてあくまで割り切っており、新聞のネタになりにくいのであれば価値の薄いものとして記憶と記録の地層に沈んでいく。  
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