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当人にとっては急所になりえるような、ごく個人的な範囲での色恋沙汰のトラブルなどはそれの筆頭だった。
いくら特定の誰かに対して絶大な威力を誇る情報だろうが、よほど面白くなければただの他人事でしかないのだから、記事にする意味などない。
その問題の渦中にいるのが生徒会長や教師などの有名人ならばその限りではないが。
「あたし達は会ってないからわかんないんだけど、そんなやばいの?」
そんな水谷に向かって、九十九美琴、この部活の現部長が尋ねる。
癖のあるショートヘアは外側に遊び、前髪をヘアピンで二箇所留めていた。
ぱっちりと開かれた双眸は毅然とした輝きを備え、普段は少しきつい印象を与えるものの、今その表情に素直な疑問を滲ませている。
「……いえ、那賀君には特に後ろめたいものなどありません」
「そういうことじゃなくて。麻衣ちゃんの話だと、部活に入れない? とか、なんとか。聞いたんだけど。そのへんは?」
錯綜する情報をまとめようとするかのように美琴の視線は水谷を射抜くが、彼は口を閉ざしてしまった。
水谷が遠回しに触れたのは、去年下心と企てをもって入部してきた瑠維や涼子のことだ。
那賀にそういった悪意のある事情はない、ということは情報として語られてしまったことになる。
しかし美琴が欲しいのはそれではない。
「それをボクの口からは言いにくいです、ということで察してもらえますか」
あえて的を外したような答えは、結局その中心を穿つことを許されなかった。
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