思いでの墓標

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  水谷が黙ってしまうということは、やすやすと語れない理由があるに等しい。 やはり那賀はなにかを抱えているのだと、安土は確信めいた想いを抱く。 「オレの事情と、似たようなものですか」 「外野がどうこう言うのはデリカシーに欠けますね」 即答した水谷はこれ以上触れてくれるなという目をしていた。 彼は彼なりに考えて情報を周囲に与えている。 他人の秘密を情報として知ることはあれど、それを悪用することは滅多にないし、新聞のネタにするときもフィクションを多分に盛り付けて誰だか特定しづらいようにしていた。 真聞部の陰湿かつ巧妙なやり方自体を改めさせたりやめる気はなくとも、刃の振り方には多少気を使っている。 姉の詩織がクラスなどで周囲から孤立しかけていたのに対し、弘希は男女問わず良好な関係を築いていたことまでは安土も知ることではない。 「とにかく、ボクの口から、これ以上は」 繰り返す。 ここまでくれば答えを言ったも同然ではあるが、具体的なことまで伝えるつもりは一切ないらしかった。 しかし美琴はソファに背中を預けると、ふぅん、と興味薄げに呟く。 「ま、言うことは言ったんならあとは本人次第でしょ。あたし達がうだうだ気にしたって意味ないし。ねえ?」 たった今尋ねたばかりだというのに、もう話題を収束に向かわせようとする美琴。 思わせぶりな逃げ方をする那賀を放っておけそうにない安土たちとは違い、美琴は『頼って構わないと伝えたのに遠ざかるならもう放っておけ』という考えだった。  
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