思いでの墓標

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  それはちくわ部にいてリラックスしているからというのと、情報をただの情報として捉えた結果、扱いが軽くなるからうっかり漏らしてしまうんだろうと去年卒業していった先輩が分析していた。 その点、弘希はいつも冷静だ。 与える情報の引き際をよく考えている。 『ただの情報』として扱うときと、『誰かの秘密』として扱うときを使い分けているとも言える。 以前麻衣が彼のことを『他人思い』と評していたのを思い出し、日頃の柔らかな物腰といいよく気を回すことといい、根はとても優しい人なのだろうと安土は水谷を認識した。 そういえば瑠維ともそれなりに仲が良かったことに思い至り、とはいえそれが犬猿の仲に毛が生えたようなものであることを思うと、このことを瑠維に話してもあまり意味がなさそうだ。 放課後を迎えそうになっても、安土と涼子は那賀とろくに話せていなかった。 今は帰りのHR。 黛の口から淡々と連絡事項が語られていくが、内容がいまいち頭に入ってこず、あちこちに足を突っ込んだまま考えのまとまりきらない自分がまた不甲斐ない。 安土の必要以上に自分を責める癖は、ひとたび負の連鎖が始まるとなかなか途切れない悪癖だった。 なにもかも、中途半端。 このままじゃいけないのに。 「そーゆーワケで。いつまでも春休み気分でぼやっとしてたら出だしでコケっからな。ンじゃ、今日は終わり。日直ー」 黛の指示を受けた日直の号令で、生徒達はがたがたと音を鳴らして椅子から立ち上がる。  
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