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「ナガ君が半端なことするからフミ君も困ってたんだよ? そーやって遠回しにウジウジしちゃうのとかほんっと無理。ねぇ、悲劇の主人公ぶって楽しい?」
「……お前」
那賀の表情に険しさが増してゆく。
瑠維は、人の心のデリケートな部分など知ったことかと言わんばかりに踏み込んで来る人間だった。
彼女は同じように、周りの人間からひどく心を踏み荒らされたことがある。
痛みとして重くのしかかってくるそれに潰される人もいる。
しかし彼女は逆にそれを、自らを高みに置くための踏み台にしてやることに成功した。
尊大ともとれる態度の根本的な理由はこれであり、ちょっとやそっとでは、自分というものを曲げる気がない。
そして安土も、彼女に立入禁止区域を踏み荒らされたことがある。
持ち前の強さで折れることなく立ち上がっただけでなく撥ね付けて踏みつけて昇華させてみせた瑠維にとって、周囲から及ぼされた痛みに屈した安土は軽蔑に値したのだ。
それらは結果的にプラスの方向へと働いたが、ただ負を正に転じさせることに成功しただけで、今の那賀と対峙しているこの状況が後々プラスになるかはまだ博打に近い。
荒療治に近い強引な掘り返し方ではあるものの、瑠維の読みさえ正しければ正攻法だ。
手垢にまみれた甘ったるい優しさなどもう意味を為さず、もっと強く掴んで追いかけてやらないと、那賀が本音を吐かないというのなら。
ただそれがまだ仮定の域を出ることなく、結果が出る直前までわからないことが問題だった。
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