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本当はバスケをやりたいのだろう、そう思えば辻褄が合う。
しかしこれまで引き伸ばしてきたからには、那賀本人にしかわからない痛みだとかなんだとかが籠っているに違いない。
それはたやすく踏み込んでいいものではないし、瑠維のように荒療治に及べる自信もない涼子は押し黙る。
那賀は自嘲気味に笑った。
「んな気ぃ使わなくていいよ。成宮の言うとおり、俺の甘えだから。振り回してごめんな。安土も」
「え、ううん。気にしないで」
急に態度を変えた那賀に混乱して、安土は思わず少しオーバーに手を振ってしまう。
今度こそ、余所行きの仮面でもなければ拒絶反応でもない、無防備な状態だと思われた。
どこか肩の力が抜けているような気がするし、どうやら瑠維に踏み込まれたことで、むしろ踏ん切りがついたらしい。
思い切ったような声で、こう続けた。
「本当は違うんだよ。バスケやりたいけど、逃げちまった」
「……『逃げた』?」
瑠維の声がワントーン下がる。
彼女の嫌う言葉だった。
それを知る由も無い那賀は頷くと、瑠維がなにか言うより先に言葉を続ける。
「続けようと思えばできた。でも、空気に耐えられなくて」
「なにそれ。やればよかったじゃん、そんなに後悔するくらいなら」
棘のある物言いで、瑠維は那賀を非難した。
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