硝子の部屋

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  瑠維はかつて、身体的な特徴が原因でいじめを受けていたことがある。 しかしそれらを努力によって跳ね返し、屈することなく撥ね退けた。 そうやって、状況を自分一人の力で変えたことのある瑠維にとっては、状況から逃げ出すことは愚行としか思えない。 ただ、瑠維の場合は自らの意識と努力とでどうにかなる問題だったからどうにかなっただけだ。 安土の瞳のように、変えようもない問題まで同列に扱ってしまうことは彼女の悪い癖だった。 それについての意識の薄い瑠維が那賀の傷を抉り出してしまう可能性は、まだある。 軽蔑の色を多分に含んだ視線を受けていることをなんとなく察しつつも、那賀はそれを受け入れたらしい。 軽く頷くと、独り言のように呟きはじめる。 「そうだな。ほんとそう思う。……でも、分かるか? やりたいのにできない、つい昨日まで俺の居た場所に今日からは立てない、戻るには時間がかかる……『追いつけるのか』? って不安と、目の前でやってることに混ざれない悔しさ。どうだろ、俺もまだ混乱してるみたいだ」 本人の弁に違わず、那賀は混乱しているようだった。 説明するというよりは、浮かんだ言葉をただ吐き出しているというだけで、瑠維は汲みきれずに怪訝な顔をする。 「なにか、大きな怪我?」 そこに口を挟んだのは涼子だった。 ここまで話したら、もう考えられることは故障しかない。  
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