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那賀の身体に変わったところは見当たらなかった。
骨折していますと言わんばかりに腕を吊っているわけではないし、松葉杖を持って来ているわけでもない。
しかし、運動を制限されてしまう怪我はそういった派手なものだけではないことを、涼子はなんとなくでも知っていた。
むしろ、ぱっと見ではわからないようなところの故障のほうが重いことだってある。
「ああ。地味ーなとこだけどな」
そう言って、那賀は場所を示すように軽く右膝を触る。
穏やかな声だった。
涼子達を責めるふうでもなく、自嘲するでもなく、さらりと流してしまうような、そんな声色。
「膝がやられて、手術沙汰になった。歩けるけど、走るのはまだ止められてる。それからその先、激しい運動ができるようになるには、もうちょっと時間がかかる」
「……だから、見学にも行かないでストレートにこっちに来たんだ」
確認するような安土の声には、軽く頷いて肯定する。
行く必要がないどころか、彼にとっては歯痒さを煽る光景にしかならなかったというわけだ。
そこにすぐさま、瑠維が不機嫌そうに棘を浴びせる。
「わっかんないなぁ。リハビリ? すれば、戻れるんでしょ? 一時期の我慢が出来なくて、これからの二年をほっぽり出したってこと?」
この時ばかりは、安土も涼子も瑠維を制する気になれなかった。
今の那賀は、一時の感情に振り回されてしまっただけで、本当に全くの取り返しが付かなくなってしまったわけではないのだから。
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